Special  公募  真綿のある風景 絵画  受賞作品

「真綿のある風景」絵画公募 総評
遠い昔のことですが、真綿布団を打ち直していた祖母の姿を今でも思い出します。絹真綿はたしかに「日常風景」として暮らしに息づいていた時代がありました。しかし今の私たちの暮らしから「真綿のある風景」は、すっかりと消え去ってしまいました。今回の公募には多数の応募をいただきましたが、テーマをしっかりと理解した作品が存外に少なく、いささか残念でもありました。カイコや繭の姿形は創作の対象として魅力の尽きないものです。しかし今回のテーマに求められたことは、暮らしに息づいた絹真綿への気づきや想いを表現することにありました。選考作品は、真綿引き、指ぬき、布団、長陽の節句、地方祭事など様々ですが、不思議にすべて優しく、温かみのあるものとなりました。季節は春に向かっていますが、ちょうど春の息吹を見つけるような、作者たちの新鮮な気づきや、はずんだ気持ちも感じられるようです。今回の選考作品から、絹真綿の魅力はもちろん、それを愛しく、大切に扱う風景に思いをはせていただければ幸いです。

協会賞「小さな美の中の存在」
加賀指ぬきとは、真綿を土台にして美しい絹糸でかがって仕上げた金沢の工芸品です。絹真綿の柔らかさと強さを生かした針道具で、色糸の美しさに目をうばわれがちですが、これを真綿の工芸品として取り上げた眼差しを高く評価しました。色とりどりの指ぬきはもちろん、真綿、製図や色糸、手芸道具などが細かくあらわされている点は、クラフト作家である作者ならではのことでしょう。女性の手元のクローズアップ、真綿で遊びたそうな黒猫、柔らかな色彩表現も、真綿を扱う仕事の楽しさや優しい気持ちを表すものとなっています。これからも日々の仕事のなかでの気づきを大切に、健やかな作品に期待したいと思います。

評:片山まび(東京藝術大学)

日本真綿協会賞

「加賀指ぬきの制作風景」
サイズ:縦39.3×横51.5cm
林田 洋子
真綿はどこにと思い巡らしたら、小さな美の中でしっかり息づく真綿が有りました。昔より針仕事の指で絹糸は色彩豊かに輝き、真綿は中で輝いて支え、今に受け継がれています。大切に思う気持ちをつないで静かに制作する時を描きました。(text:林田)

真綿の祭事風景部門賞

「お衣替え」
サイズ:縦4×横24.5cm
半谷 良男
深い森で包まれた冬の日、御神体の衣を純白の真綿でくるむ「お衣替え」の神事がここ矢立雪矢神社例祭でとり行われる。神聖な儀式にふさわしい神宿る雰囲気が出せただろうか。(text:半谷)

準協会賞

「依代と鎮魂」
サイズ:縦33.3×横22cm
玉井 祥子
今回この公募を通じて、木綿の伝来前より日本に古く存在した、動物性の天然素材である驚異の”真綿”というものを、初めて知ることが出来ました。この絵画の公募では、真綿そのものは作わずに、真綿の本質的・根源的な美と価値を表現するものと解釈し、以下のテーマで抽象表現を行いました。古くから蚕神としてトトコやトウトサマとも呼ばれ大切にされてきた蚕を原料にして作られる真綿には、制作過程に死が存在し、完成された品は生と死が内包された「高貴な白」である。その優しさと強靭さが両立している真綿の匂い立つ美、さらに遥か昔より日本人の心象風景として、心情に深く寄り添ってきた暖かみを可視化するべく本作を描いた。使用した素材は、土佐農具帖紙という手漉き和紙で植物性のものですが、物が異なっても、真綿と和紙、古くより日本に存在する至高の技と美に尊敬の念を持っています。本作は極細の線を墨で描きながら、繊維を立体的に引きあげるオリジナルな技法で制作しました。(繊維の立ち上がりは黒い部分は墨で、白い部分はしょうふのりで、それぞれ固まっていますので、経年劣化の心配はありません)(text:玉井)

真綿の制作風景部門賞

「紡ぐ手」
サイズ:縦45.5×横33.3cm
加藤 修
70年真綿を紡いできた老女の姿を描きました。(text:加藤)

真綿の自由な風景部門賞

「菊花真綿図」
サイズ:縦41×横27.3cm
西沢 紀子
「菊の被綿」平安時代から菊花に真綿を被せ、朝霧で湿った真綿は菊の香りを移し「長寿・若さを保つ」と言い伝えられています。紫式部も歌を詠んでいた時代(とき)から続いている重陽の節句をフレスコ画で描いてみました。(text:西沢)